天皇記『アメノヒボコ』
アメノヒボコ
下巻に入る前に、中巻のラストに番外編が2つ載っているのでご紹介。
まずは、お菓子の神様タジマモリのひいひいおじいちゃん、神功皇后のご先祖様、アメノヒボコのお話だ。
新羅の王子様 ヒボコは諸事情あって、垂仁天皇が11代目天皇になって3年目の、まだサホビメとラブラブな時期に日本にやって来た。
ヒボコは、新羅でありがちなワガママ王子様キャラだった。まぁ、実際に新羅の王子様なのでキャラ設定は全然間違っていないのだけれど ・ ・ ・
にしても、お隣もお隣で1000年以上前から萌えキャラが変わっていないらしい。
アメノヒボコ
こちら ・ ・ ・ お納めください。
ヒボコは新羅から持ってきた神宝を垂仁に献上する。
垂仁天皇
わぁ!ありがとうっ!!
船旅大変だったでしょう??お疲れ様〜!
アメノヒボコ
いえ。
垂仁天皇
でも、なんでこの時期に??旅行ってわけでも無さそうだけど ・ ・ ・ 何かあった??
アメノヒボコ
えぇ、実は垂仁さんにご協力いただきたいことがありまして ・ ・ ・ ・
話しによると、彼は新羅人と日本人のハーフ妻を持ていたのだが、その妻と喧嘩をしたところ彼女が怒ってしまい、日本の実家に逃げられてしまったそうだ。
アメノヒボコ
そこで、妻探しのご協力をいただけないかと思い ・ ・ ・
垂仁天皇
なんだ、そうだったんだー。全然いいよ!お役に立てるなら、何なりと!!
垂仁天皇
それで、どんな子なの??
垂仁は自分で協力できるならと、詳しい話しを聞いた。
しかしその話しはとっても不思議なものだった。
ある日、新羅の商人の男が沼のほとりを歩いていたそうだ。すると、1人の女性が昼寝をしているのが目に入った。
新羅の商人
恰好からして、身分は低そうだけど、綺麗な人だな。
でも、あんな所で寝てて、危なくないかな ・ ・ ・
商人がなんとなく彼女を眺めていると、急に彼女の陰部が虹のようにパァァっと輝きだす。
新羅の商人
へっ!?
彼女も不思議に思って起き上がったが、他には特に変わった様子もなかったので、そのまま家に帰ってしまった。
しかし、その衝撃的なシーンを目撃してしまった商人は、興味を持って彼女の後を追った。彼女の名前はアグヌマといい、沼の近くの村に住んでいるらしい。そこで商人はしばらくその村に拠点を置き商売をすることにした。
こうして商人がアグヌマを観察していると、不思議なことに彼女のお腹がだんだんと膨れて大きくなった。もちろん、アグヌマに夫がいる様子もない。
新羅の商人
きっと、あの光で妊娠したんだ ・ ・ ・ !!
やがてアグヌマは出産をしたが、生まれてきたのも赤子ではなく、ただの赤い玉だった。彼女はとても不気味に思ったが、その話を聞いた商人は、
新羅の商人
それは、きっとスゴイ玉に違いないっ!!
と思い、彼女のもとを訪れ、その玉を貰い受けた。そして、それ以来、大切に布に巻いて腰に付けていた。
それから何年も経ったある日。
商人は自分の田んぼで働いている農夫たちに差し入れを運ぶために、牛に食べ物や飲み物を括りつけて、田んぼのある谷へと向かっていた。
すると、その道中でヒボコと出会う。
ヒボコは何を思ったのか
アメノヒボコ
なんでお前、この牛に食料を括りつけて谷に行くんだよ。
新羅の商人
はい??
アメノヒボコ
さては、お前、この牛を殺して食べるつもりだろっ!!
と食ってかかり、商人を牢屋に入れようとした。商人は
新羅の商人
へ?いや、殺すつもりなんてないですよ。農夫に差し入れを運んでいただけなのですが ・ ・ ・
と、ポカンとすると、ヒボコは顔を真っ赤にして
アメノヒボコ
っっんなわけあるかぁー!!ボクが間違える訳ないだろっ!!ボクを疑うなっ!!
バカァーー!!!
と謎の言いがかりをつけてくる。
新羅の商人
えぇー??
アメノヒボコ
なんだよ、その顔は。ボクよりもお前のが正しいとでも言うつもりか??
ボクは新羅の王子だぞっ!!
新羅の商人
いえ ・ ・ ・ しかし、どうか、許していただけませんか?農夫たちもお腹を空かせて待っていますし ・ ・ ・
アメノヒボコ
許すかよバカッ!バカーッ!!
新羅の商人
うぅぅーん。参りましたね ・ ・ ・ 。
あっ、そうだ!!
困り果てた商人は、あの大切にしていた赤い玉を彼に差し出して、これを手に入れた経緯を説明した。
すると、ヒボコが『パァ ・ ・ ・ 』っと嬉しそうな表情に変わる。
アメノヒボコ
仕方ないな。貰ってやるよ。見逃してやるんだから、ありがたく思うんだなっ!!
そしてヒボコは、上機嫌で宮殿へと帰って行った。
その夜、ヒボコは赤い玉を自分のベッドの脇に飾った。
アメノヒボコ
へへっ、いいやつ貰っちゃった。
すると、その玉が急に輝き出したではないか。
アメノヒボコ
うわっっ!!なんだっ!?
ヒボコが驚いて後ずさると、その玉はたちまち美しい乙女に変わった。
???
・ ・ ・ ・ ・ ・
アメノヒボコ
わぁ。綺麗な人だ ・ ・ ・
ヒボコは思わず彼女を引き寄せる。彼女は嫌がる素振りも見せない。
アメノヒボコ
変わった着物だけど、これ、日本のやつだっけ??
彼女からじっと見つめられると、ヒボコは恥ずかしくなり、視線をそらして後ろを見る。すると、たまたま偶然、そこにベッドがあったので、この夜は2人で一緒に寝ることにした。
話によると、彼女の名前はアカルヒメと言い、どうやら父親は日本の神らしい。しかし、そんなことはヒボコにとってどうでもよかった。一目で恋に落ちたヒボコはアカルヒメを正妻として迎え、一緒に暮らすことにする。
それにしても、商人の前では人の姿にならなかったくせに、王子の前で正体を表すとは、彼女もなかなかしたたかだ。
アカルヒメ
ヒボコさま、今日の夕飯は肉じゃがですよ♡
アメノヒボコ
ん? ・ ・ ・ なにコレ。
アカルヒメ
父の国の定番家庭料理です。どうぞ、お召し上がりください。
アメノヒボコ
・ ・ ・ はっ!!おいしいっ!!!
アカルヒメ
お口に合ってよかったです!!
アメノヒボコ
でも、ちょっと薄味かな??
アカルヒメ
え ・ ・ ・ ヒボコさま?なんですかそれ。
アメノヒボコ
ん?マイコチュジャン。
ヒボコが、さも当然のようにチューブタイプのマイコチュジャンを絞り出す。
アカルヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・
アメノヒボコ
あいごぉ〜♡
絶対合うと思ったよコレ!!めっちゃうまし♡♡♡
アカルヒメ
辛っ!!!
ヒボコの正妻になったアカルヒメは、毎日、珍しくておいしい手料理をたくさん作り、彼に尽くして優しくしてくれた。彼はこうして自分に尽くしてくれる彼女のことを、心から愛していた。
・ ・ ・ ・ が、しかし。
この王子様、とっても独占欲が強かった。
アメノヒボコ
君は黙ってボクのそばにいればいいんだ。ボクから離れるな。
からはじまり、
アメノヒボコ
ボク以外の男と話すのは禁止だ。
アメノヒボコ
他人に笑いかけるな!その笑顔はボクだけのものなんだ。
アメノヒボコ
外に出るな!ボク以外の男が君を見つめるのが嫌なんだ!!
と日々束縛が増して行く。
そして終いには
アメノヒボコ
何で君は昨日ボクの夢を見なかったんだ!!
アメノヒボコ
ボクは3日も続けて君の夢を見たんだぞっ!!
君はボクのことを愛していないのかっっ!?
と、ブチ切れた。
こーいうのがたまらない女性にとっては良かったのかも知れないが、アカルヒメはそうじゃなかったらしい。
彼女もついにブチ切れる。
アカルヒメ
ほざけっ!!
んなワガママがリアルで通じると思ったら大間違いなんだよっ!!
アメノヒボコ
へっ!?あかるちゃん??
急変してしまった彼女の態度にヒボコも戸惑う。
アカルヒメ
だいたい、私はあんたなんかの妻になるレベルの女じゃないのっ!!
アカルヒメ
私は、もっと雲の上の存在なんだからっ!!いい加減にしてよねっ!!
親の国に帰ってやる!!
アメノヒボコ
あいごぉぉ!?
アカルヒメはそう言い捨てると、小舟で日本に逃げ出してしまう。するとヒボコは慌てて、
アメノヒボコ
いっ ・ ・ ・ 嫌だあぁぁ!君はボクの全てなんだ!!
アメノヒボコ
君のいない世界なんて意味が無い!!君がいなければボクは生きている意味が無いんだあぁぁっっ!!!
と言って日本まで追いかけて来たのだ。
こうして、垂仁に協力を求めに来たところに話しは戻る。
垂仁は、
垂仁天皇
まじかぁ~!!超かわいそう!!!超気持ち分かる!!!
垂仁天皇
オレも、さほに捨てられたら生きていけないもん!!
垂仁天皇
マジ、オレ、全面協力するからっ!!すげー応援するからぁぁっっ!!!
と言って、アカルヒメの行方を探させた。
そんな垂仁も数年後、サホビメに捨てられることになるのだが ・ ・ ・ それはさておき。
こうしてアカルヒメが、難波に住んでいることを突き止めると、ヒボコは早速、船を出した。
しかし、難波の海の神が彼女までの道を遮り、結局辿り着くことができず、船は流され、最終的に但馬国(兵庫県豊岡市)まで流れ着いてしまう。
アメノヒボコ
あかるちゃん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐすっ ・ ・ ・
ヒボコは絶望の中で呆然とし、何もする気が起きなかった。
そして、しばらく但馬国のタジマノマタオさんの家でお世話になり、傷心生活を送っていたのだが、そのうちに、マタオさんの娘のマエツミという女性とイイ感じになる。
やはり、大失恋の傷を癒してくれるのは新しい恋らしい。やがてヒボコはこのマエツミと結婚し、但馬国で家庭を築いた。
そのうち、ヒボコとマエツミは子宝に恵まれ、孫、曾孫、玄孫が生まれ、その玄孫がお菓子の神様タジマモリになる。
垂仁天皇
そっかー。ヒボコくんも、新しい恋見つけたんだねぇー。
アメノヒボコ
あぁ。まぁ ・ ・ ・ あかるちゃんのことを忘れられた訳じゃないけど。
垂仁天皇
わかるっ。わかるわー。オレもフラれちゃったからなぁ ・ ・ ・
アメノヒボコ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ぐすっ。
垂仁天皇
え、ちょ、ヒボコくんっ!?
アメノヒボコ
あうぅ ・ ・ ・
垂仁天皇
うおぉぃ!!ヒボコぉぉ〜、泣くなよぉぉ!!!おれもサホのこと思い出しちゃうじゃんかぁぁ!!!
アメノヒボコ
んああぁぅぅ ・ ・ ・ ・
垂仁天皇
ぶふぁぁぁんっっ!!!
こうしてヒボコは変な親近感からか、タジマモリまで4代にも渡って垂仁に仕えた。
ちなみにヒボコが垂仁に持って来た、玉飾りのネックレスや、ヒレや、鏡などの8つの神宝は神格化され、イズシの八前という神様として、ヒボコと共に今でも兵庫県豊岡市の出石神社に祀られている。