ホムチワケの初恋

故、出雲に到りて、大神を をろが み  へて還り のぼ ります時に、 ひの 河の中に黒き 巣橋すばし を作り、 仮宮かりみや を つか へ まつ りて  さしめき。

ここに出雲 国造くにのみやつこ の おや 、名は 岐比佐都美きひさつみ 、青葉の山を かざ りて、その 河下かはしも に立てて、 大御食おほみけ 献らむとする時に、その御子  りたまひしく、

「この河下に、青葉の山の如きは、山と見えて山に非ず。もし出雲の 石硐いはくま の その 宮に坐す 葦原色許男あしはらしこをの 大神をもち いつ く はふり の 大廷おほには か」と問ひたまひき。

ここに 御伴みとも に遣はさえし 王等みこたち 、聞き よろこ び見喜びて、御子をば 檳榔あぢまさ の 長穂ながほの 宮に坐せて、 駅使はゆまづかひ を 貢上たてまつ りき。

ここにその御子、 一宿ひとよ肥長ひなが 比売と まぐは ひしましき。故、その 美人をとめ を 窃伺かきまみ たまへば、 をろち なりき。すなはち 見畏みかしこ みて 遁逃 げたまひき。

ここにその肥長比売 うれ ひて、海原を てら して船より追ひ来たりき。故、 ますます見畏みかしこ みて、山のたわより御船を引き越して逃げ のぼ り  でましき。

ここに 覆奏かへりごとまを ししく、「大神を拝みたまひしによりて、大御子 もの りたまひき。故、 参上まゐのぼ り来つ」とまをしき。故、天皇 歓喜よろこ ばして、すなはち菟上王を返して、神の宮を造らしめたまひき。

ここに天皇、その御子によりて、 鳥取部ととりべ 、 鳥甘部とりかひべ 、 品遅部ほむぢべ 、 大湯坐おほゆゑ 、 若湯坐わかゆゑ を定めたまひき。

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