故、神倭伊波礼毘古命、 其地 より廻り幸でまして、 熊野 村に到りまししとき、 大熊髪 かに出で入りてすなはち失せき。
ここに神倭伊波礼毘古命、 倏忽 かに 惑 えまし、また 御軍 も皆 惑 えて 伏 しき。
この時熊野の 高倉下 、 一 ふりの 横刀 を 齎 ちて、天つ神の御子の伏したまへる 地 に到りて献りし時、天つ神の御子、すなはち 寤 め 起 きて、「長く 寝 つるかも」と詔りたまひき。
故、その 横刀 を受け取りたまひし時、その熊野の山の 荒 ぶる神、 自 ら皆切り 仆 さえき。ここにその 惑 え伏せる御軍、悉に 寤 め起きき。
故、天つ神の御子、その 横刀 を 獲 し 所由 を問ひたまへば、 高倉下 答へ 曰 ししく、「 己 が 夢 に、天照大神、高木神、二柱の神の 命 もちて、建御雷神を 召 びて詔りたまひけらく、『葦原中国はいたく 騒 ぎてありなり。
我が 御子等不平 みますらし。その葦原中国は、 専 ら 汝 が 言向 けし国なり。故、 汝 建御雷神降るべし』とのりたまひき。ここに答へ 曰 ししく、『 僕 は降らずとも、専らその国を 平 けし 横刀 あれば、この 刀 を降すべし。
(この刀の名は、佐士布都神と云ひ、亦の名は甕布都神と云ひ、亦の名は布都御魂と云ふ。この刀は石上神宮に坐す。)
この刀を降さむ 状 は、高倉下が倉の 頂 を 穿 ちて、それより 堕 し入れむ。故、 朝目 吉 く汝 取り持ちて、天つ神の御子に献れ』とまをしたまひき。故、夢の教への 如 に、 旦 に己が倉を見れば、 信 に 横刀 ありき。故、この横刀をもちて献りしにこそ」とまをしき。

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