古事記の原文・掲載ルール

古事記と日本書紀

なりゆきで天武天皇てんむてんのうじきじきに朝廷内を案内されることになった安万侶やすまろは、トボトボと天武の後について歩いた。

安万侶

あの……お忙しいのに、父が強引にすみません

天武

ははっ、子どもがそんなこと気にしないの

天武

それに、この前の賭博とばくで、ガッツリ品治ほんじのこと負かせちまったから……まぁ、このくらいは

安万侶

む? そのお話、聞いてないんですけど……

天武

えっ!? あ、ごめん。今の、忘れて?

安万侶

帰ったら、母上にチクってやる……

天武

てか、なんだかんだ品治ほんじとは付き合い長いんだよ

天武

壬申じんしんの乱」の話は聞いてるでしょ?

安万侶

ええ……父の武勇伝ぶゆうでんは、飽きるくらい

天武

ははっ! 君のパパ、すごい活躍だったんだから

安万侶

へぇー。そうなんですか

天武

ふっ。しかし、「やすまろ」か……

天武

いい名をもらったね?

安万侶

はぁ……

天武

そしたら、早速、君のインターン先を案内しよう

安万侶

む? いんたーん?

天武

そ。歴史の編纂へんさんプロジェクトに関われば、勉強もできて、仕事もはかどって、一石二鳥だろ?

安万侶

おー!本格的な歴史編纂へんさんの現場っ!楽しみですっ!!!

天武

うん。ざっくり、概要がいようを説明すると、現在、朝廷ちょうていでは日本の歴史書編纂へんさんのプロジェクトを進めていてね

安万侶

編纂へんさん……ってことは、歴史をまとめ直しているってことですよね?

天武

そう。各国、各氏族から資料を集めて、歴史の洗い出しやら系譜けいふ精査せいさやら、もろもろな

天武

朝廷では、ご先祖様の功績こうせきで、役職やら給料が有利になることがあるから

天武

結構、ウソ書いてる氏族も多いんだよ

安万侶

なるほど……

安万侶

でも……そんな大事なことなのに、今まで日本に歴史書ってなかったんですか?

天武

あー。本当は、聖徳太子しょうとくたいし蘇我馬子そがのうまこのまとめたものがあったんだけど……

天武

ほとんど、燃えちゃって

安万侶

燃えたっ!?

天武

そ。うちの兄貴のせいで燃えたの

安万侶

陛下の「兄貴」って、まさか…………

安万侶

中大兄皇子なかのおおえのおうじ

天武

そうそう。「乙巳いっしの変」の時にね

天武

蘇我入鹿そがのいるかが殺されて、逆上した蝦夷えみしが燃やしちゃったんだよ

安万侶

うわー。中大兄皇子と藤原鎌足ふじわらのかまたりのやつだ

安万侶

教科書に載ってる項目、身内ネタとして聞くの新鮮です!!

天武

ははっ! でも、兄貴の代は「白村江はくすきのえの戦い」で惨敗ざんぱいして、歴史書編纂へんさんどころじゃなかったから

天武

オレの代で、なんとか進めようと頑張ってるとこ

安万侶

おおー!

天武

で、何年か前に兄貴の息子の川島とか何人かに、歴史書の編纂へんさんを命じたんだけどさ、

天武

これがまた、すごく時間のかかる作業で……

天武

正直、オレの生きている間に終わる気がしない

安万侶

うわー。そんなレベルなんだ……

安万侶

そしたら、まろはそのお手伝いをさせていただけるんですか?

天武

いや、あっちの現場はピリピリしてるからな

天武

君はこっちだ

天武は、おもむろに小部屋の引き戸を引いた。

安万侶

わっ……

安万侶

え? ここが、歴史の編纂へんさんプロジェクトの本格的な現場?

阿礼

なんだ、天武か

阿礼

その子が、この前言ってた見学の子か?

天武

そ。友達の子、安万侶やすまろ

安万侶

は、はじめまして、安万侶です……

阿礼

おお。もふもふだ……

天武

もふもふよな……

安万侶

えっとー……

天武

ああ、この方は、稗田阿礼ひえだのあれさんだ。歴史の編纂へんさんの作業をしてくれている

安万侶

あれ? さっきおっしゃっていた、川島様の編纂へんさんプロジェクトとは違うんですか?

阿礼

ああ。ボクは、かただからな!

安万侶

かた……?

阿礼

川島様のところのプロジェクトは、ガチの歴史書づくりだろ?

阿礼

何度か資料を借りに行ったけど、あっちは異伝いでんをまとめたり、年代の整理をしたり、めちゃくちゃ大変そうだったし

天武

そうね。あっちは国外的に……

天武

てか、とう「日本は独自の歴史と文化を持った独立国家だ」って示すための編纂へんさんだから

天武

不備ふびがないよう、厳密げんみつにやらせてる

天武

後に、『日本書紀』と呼ばれるものだ

安万侶

うわぁ……ってことは全部、中国語の漢文表記か。それは大変……

阿礼

対して、こっちは口伝くでん暗唱あんしょう

安万侶

くでんのあんしょう……?

阿礼

「口づて」で伝わってきた話を丸暗記して、声に出して言えるようにすることだよ

安万侶

うわー。こっちもこっちで大変そう

阿礼

でも、物語は一本で通っているし、なにより日本語だ

阿礼

あっちより断然マシだろ?

安万侶

確かに……

阿礼

要は、おばあちゃんの昔話の、すごいバージョンといったところだな!

阿礼

で、こっちが将来、『古事記』と呼ばれるようになるわけだ

安万侶

なるー

天武

ところで安万侶は、かたってわかる?

安万侶

えっと……しゃべるお仕事?

天武

ははっ! まぁ、そんな感じだけどな

天武

大昔は、日本に文字がなかっただろ?

天武

だから、昔の人は歴史を口づてに記憶して覚えていたんだよ

天武

かたは、それを専門にした部署のことだ

安万侶

ええっ!? 何百年もの歴史を!?

天武

そう、すごいよなー

阿礼

へへっ……

天武

川島の方は、編年体へんねんたいっていう年代別表にしていて、正確さや、情報量はあっちの方がひいでていると思うけど……

天武

でも、昔ながらのかたが語り継いできた歴史って、古い大和やまと言葉の響きが残っていて美しいんだ

天武

それはそれで、残したくてね

安万侶

わー! 素敵ですねっ!!

天武

だろ? オレが小さい頃は、かたもまだいっぱいいたから

天武

じいさんたちの話を聞くの好きだったんだよ

天武

でも、仏教の広まりと共に、これまで以上に文字が慣例化かんれいかして、語り部の数が減っちゃって……

天武

阿礼ちゃんは、もともと雑用係の舎人とねりだったんだけど、「聞いたもの、見たものを忘れない」って特殊能力を持ってたから、スカウトしたんだ

安万侶

へぇぇー!

阿礼

オイ、天武。今、どさくさに紛れてボクを「ちゃん」付けで呼んだだろ。失礼だぞ。やめてくれ

天武

はぁ。文字のおかげで、便利にいろんなことを残せるようになったのはいいんだけど……暗唱あんしょうできる人間は激減

天武

進化してんだか、退化してんだか……

天武

いまどき、阿礼ちゃんレベルで一言一句間違わずに覚えられる人材はなかなかいないんだよ?

安万侶

へー! すごいですねっ!

阿礼

まっ、まぁな!

阿礼

しかし、天武。「ちゃん」付けはやめろ。不快だ

天武

とりあえず、阿礼ちゃんには帝紀ていき旧辞きゅうじ、神話から歴史まで暗唱あんしょうできるようにさせたから、知りたいことがあればなんでも聞くといい

阿礼

オイ、天武。いいかげんにしろよっ!!絶対、わざとだろ!?

天武

んー?

阿礼

ったく。安万侶に、女だと思われたらどうするんだ

安万侶

ええっ!? 阿礼さんって女性じゃないんですかっ!?

阿礼

いや、どっからどう見たって、立派な大和男子だろうがっ!!!!

安万侶

いや、どっからどう見ても女の子!!!

天武

ははっ。いいんだよ、安万侶。阿礼ちゃんの容姿は「稗田阿礼女性説」によるただのネタだから

安万侶

ああ、なるほど! わかりました!!

阿礼

いや、わかるなっ!!!

天武

さて。そしたら今日は、阿礼ちゃんが覚えた「古事記ふることふみ」の原文の読み合わせチェックをするから聞いていくといい

安万侶

ありがとうございますっ!

阿礼

無視……

安万侶

でも、その前にいくつか質問してもいいですか?

天武

ああ、もちろん。なんでも聞いて?

安万侶

では、早速……

安万侶

陛下、今、さらっと「ふることふみ」こと、「古事記こじき」の解説はじめようとしましたけど、古事記の成立って、西暦712年3月9日の奈良時代ですよねぇ?600年代後半、まだ飛鳥時代の現時点では、古事記の『原文』が成立しているわけないので、時間軸的に正確な古事記の原文を読むのは、かなり無理があると思うのですが

天武

おお。早速ブッ込んだな、安万侶

安万侶

すみません、気になって……

天武

いや、好きよ?

天武

それに、オレらが「古事記の原文解説」を行うのには明確な理由があるから。安心するといい

安万侶

そうなんですね! なんですか?

天武

著者の「最推し」がオレなんだ

安万侶

Oh……

天武

オレなしで、あの漢字の羅列られつとは向き合えないそうだよ?

安万侶

ほぉーん? そいつは、ご苦労をおかけしますね?

安万侶

ただ、推しのためなら、あの漢字の羅列とも真摯しんしに向き合えるという気持ちはわかる……

天武

だろ?

安万侶

わかりました。そしたら、まろとしては本当は、実際に古事記の編纂へんさんを命じた阿閇あへ様とやり取りしたかったですけど……

天武

あー。未来の元明げんめい天皇ね?

安万侶

はい。未来の陛下とのおしゃべりは、ラノベ古事記書籍版までのおあずけということで、ここでは我慢します

天武

ん? 我慢? あー。うん。まぁ、よしとするか

天武

他に質問は?

安万侶

では、読者が混乱しないようにルールを明記しておいた方が良いかと

天武

そうね。それは賛成

天武

じゃー、時代設定、全部無視して答えるから、なんでも聞いてくれ!

安万侶

ありがとうございますっ!

古事記原文掲載ルール

安万侶

そもそも、『古事記の原文』って何ですか?

天武

西暦712年3月9日(和同5年1月28日)に成立した古事記の写本に残された、太安万侶おおのやすまろが記したとされる文を『原文』とする。なお、旧字体は、新字体に変換する

安万侶

『読み下し文』は?

天武

倉野憲司くらの けんじ訳『古事記』(岩波文庫)をベースとするが、わかりづらい箇所は修正を加える

安万侶

あと……読み下し文の『読み』ってどうします?

天武

あぁ、そうねー。『高天原』だけでも、「たかあまのはら」「たかまがはら」「たかあまはら」「たかまのはら」「たかのあまはら」とか読み方が色々あるから……

天武

ラノベ本編では著者のフィーリングで決めていたが、原文では倉野訳の読み方で統一する

天武

ただし、研究の進化によって学術的に一般的になった読みがある場合は、それを優先する

安万侶

現代語訳は?

天武

著者による現代語訳を載せる

安万侶

解説は?

天武

著者の推す説を採用するが、できる限り多角的に表現する

天武

それと、「諸説しょせつあり」とはいちいち書かない。現代から見たらこの時代は1300年以上前だからな。全部、諸説ありだ

安万侶

ですよねー

天武

わからないことがあったら、何でも質問してね

安万侶

はい!

天武

あとは?

安万侶

あとは、えっと、そのーー……むぅぅぅーん

安万侶

(チラッ)

阿礼

ん??

天武

気になることあったら、なんでも聞いていいよ

安万侶

その……この空間が「ラノベ古事記」の世界軸なのは理解しているのですが……

安万侶

それでも、『天武天皇』って死後に送られる
おくりな
だから、阿礼さんが陛下のこと「天武」って呼んでるのが、歴史好きとしては違和感が拭い切れない

阿礼

へっ?

天武

ふっっ!!

天武

でもそれ言ったら「陛下」も上表じょうひょうでしか使わんし、公的に記されたのも701年の大宝律令たいほうりつりょうだから、微妙じゃないか?

安万侶

むーん。でも、大宝律令では正式に決められたってだけで、その前から使ってた可能性高いし、まろのがまだマシです

安万侶

それより、漢風諡かんふうおくりなを付けるようになったのは奈良時代以降だし、陛下に対しておくりなで呼ぶとかまじありえないです。超失礼

阿礼

あうっ……

天武

ははっ、まぁな。でもそれ気にしちゃうと、一人につき、いくつも名前を覚えなきゃいけなくて、大変だろうから

天武

原文中は、古事記の表現をそのまま用いるが、現代語訳と解説では漢風諡かんふうおくりなで対応することとする。OK??

安万侶

むぅ……OKです

天武

じゃ。ここからは原文をそのまま記載するから、中級者向けだ。ラノベ風になっているサイトは、誰かさんの妄想が多分に含まれているから、照らし合わせて原文が確認できる構成にする

天武

オレの時代にはすでに古事記の原文できてた設定』でいくから、よろしく!!

安万侶

かしこまりましたっ!

阿礼

おお。コイツ……『設定』って言い切った

天武

そしたらまた、メタ設定になっちゃうけど、将来、安万侶が記すことになる「原文」は安万侶本人に担当してもらおうかな?

安万侶

わーい! まろ、やりたいです!!

天武

分からないところは、質問してね?

安万侶

はーい!

天武

読み下し文は、語り部の阿礼ちゃんが最適だよね?

阿礼

ふっふー!任せろっ!!

天武

あとは、現代語訳も必要か。オレは解説入りたいし、どうしようかな……

すると、ちょうどいいタイミングで扉の方から音がした。

天武

ん?

不比等

……やはり、こちらでしたか

阿礼

げ。不比等ふひと

天武

不比等くぅーん♡

安万侶

む? どちらさまですか?

天武

藤原鎌足ふじわらのかまたりの息子

安万侶

おぉ!

不比等

草壁くさかべ様から頼まれた書類、記入漏れまとめたんで、こちらの修正を願いたく

天武

ああ、わかった。じゃあ、そこに置いておいて

不比等

いや、今すぐやっていただけます? 毎度、後回しにするから漏れるんでしょうが

天武

そうだね? それより、お前、今暇だよな? ちょっと付き合えよ

不比等

いえ。要求とミスが多いトップのせいでクソ忙しいんで、あんたの修正が終わり次第戻ります

天武

わかった。じゃあ、戻る前にひとつ頼まれてくれ

不比等

だから、あんたの気まぐれに付き合ってる暇ねぇんだよ。さっさと直せ

天武

そっか……でもごめん。今、墨持ってなくて……終わったらやるね?

不比等

フッ! 墨は持ってきた。二度手間三度手間で、草壁様の貴重な時間を奪いたくないんでな

天武

わぁ〜! そっかぁ〜♡ さすが、不比等くんは使える子だなぁ! 君になら安心して任せられるよ

天武

それじゃあ、不比等くんが『現代語訳担当』ね?

不比等

は?

不比等

すみません、全く意図が理解できないのですが、なんのお話でしょうか?

天武

今から、古事記の原文を読むんだけど、読者の皆さんが、現代語訳ないと意味が分からないから、訳して

不比等

やるわけな……

天武

勅命ちょくめい
(天皇の命令で断れないやつ)

不比等

………………

天武

お返事は?

不比等

かしこまりましたぁー

阿礼

不憫ふびん

原文解説メンバー紹介

太安万侶|原文&質問


将来、元明天皇の勅命で、古事記の文章を書いてまとめて献上する人。

稗田阿礼|読み下し文


見たもの、聞いたものを忘れないという特殊能力をもっていたことから、帝紀、旧辞の暗唱のため、28歳の時に天武天皇にスカウトされる。

藤原不比等|現代語訳


古事記の編纂に関わった記録は特にないものの、この時代の謎はなんでも不比等のせいにされている。

天武天皇|解説


歴史の編纂をしようと言い出した、言い出しっぺ。結局、天武の御代では完成に至らず、後の世の元明天皇の御代に、古事記は献上されることとなる。

Author & Historical Supervisor:小野寺優
Illust:駒碧 × AI × Canva
#らのこじ感想 をXでシェアする
当サイトラノベ古事記が
書籍化しました!

月間50万PVの「古事記」現代語訳サイト『ラノベ古事記』がついに書籍化しました!
サイト読者の方にもさらに楽しんでいただけるよう、日本神話のエピソードに限界まで愛を加筆しています。個性豊かな神々の中から、ぜひあなただけの「推し神様」を見つけてください!かなり分厚い一冊になりましたが、ポチっと応援していただけたら嬉しいです!

詳細をチェック!



著書一覧